湿度管理は、製造プロセスの品質を安定させ、施設内の設備や環境を健全に保つための基本的な要件です。外気の影響を受けやすい現場や、低温状態での作業が求められる環境では、湿度の過不足が製品や装置、衛生状態に大きな影響を与えかねません。こうしたニーズに対応する空調ソリューションの一つが「デシカント空調」です。
デシカント空調の主な方式とその仕組み、それぞれの用途特性や導入事例、さらに選定時のポイントについて詳しく解説します。
デシカント空調とは、空気中に含まれる水分を物理的・化学的に除去し、湿度をコントロールする空調方式の一つです。その動作原理は吸湿材(デシカント)を使って水分を取り除くものであり、除湿に特化している点が大きな特徴です。
使用する吸湿材の状態により、大きく乾式(固体吸湿材)と湿式(液体吸湿材)に分類されます。それぞれの方式は除湿の仕組みや運用特性、導入コストなどに違いがあり、適用される業種・施設条件も異なります。
乾式デシカント空調は、シリカゲルやゼオライトなどの固体吸湿材を用いて湿度を制御する方式です。これらの吸湿材は、表面に細かな孔を持ち、水分子を吸着する性質があります。湿った空気をこの吸湿材に通すことで水分が除去され、除湿された空気が供給されるのです。
吸着された水分は、加熱された空気(再生空気)を通して吸湿材から放出され、再び吸湿可能な状態に戻ります。この吸湿・再生のサイクルを繰り返すことで、連続的な除湿運転が可能になります。
固定床式は、吸湿材を詰めたユニットを2基以上用意し、交互に吸湿と再生を切り替えて運転する方式です。構造はシンプルですが、空気の流れを制御して除湿と再生を交互に行うため、切替制御が必要です。
回転ローター式は、円盤状に成形された吸湿材(デシカントローター)が回転しながら、吸湿ゾーンと再生ゾーンを交互に通過することで連続運転を行います。構造がコンパクトで部品点数も少なく、メンテナンスがしやすいため、多くの業種で導入されています。
湿式デシカント空調は、リチウム塩溶液などの液体吸湿材を使用し、空気中の水分を吸収して除湿する方式です。吸湿液に空気を接触させることで水分が取り除かれ、吸湿液は加熱によって再生されて再利用が可能。
液体の温度や濃度調整により湿度を安定的に制御でき、精密な管理が求められる製造現場に適しています。
液体スプレー式は、リチウム塩溶液を含んだ吸湿液を霧状に噴霧し、空気と接触させることで湿度を調整する方式です。構造がシンプルで、吸湿液の温度管理によって制御精度を確保しやすく、大量処理にも対応可能です。半導体や電子部品などの製造において、安定した環境構築を求める現場に採用されています。
ローター式は乾式の中でも広く導入されており、円盤状のデシカントローターに固体吸湿材を塗布し、回転させて連続的に除湿と再生を行う仕組みです。構成がシンプルで、安定した除湿能力を保ちながらメンテナンスの手間を抑えられるのが特徴です。
ローターは吸湿ゾーンと再生ゾーンを交互に通過し、それぞれで空気の乾燥と吸湿材の再生を繰り返す構造になっています。筐体は比較的コンパクトで、導入スペースに制限がある施設にも適用しやすい点も強みです。
手術室や、医療器具の洗浄・滅菌作業を担う中央材料室といった医療施設では、年間を通じて安定した温湿度管理が求められます。これらの空間では、わずかな湿度の変動がカビや細菌の繁殖、精密機器の誤作動などにつながるリスクがあるため、湿度制御の精度が極めて重要です。
ある病院では、院内の特定エリアにローター式デシカント空調を導入。設定湿度を一定に保つ環境が構築され、衛生環境の確保と設備の保護を両立しています。
湿式は液体吸湿材を活用し、高精度な湿度調整が可能な方式です。リチウムクロライドやリチウムブロマイドなど塩類を含む溶液が空気と直接接触することで、水分を効率よく吸収します。
吸湿液の温度や濃度を調整し、除湿だけでなく加湿もできるため、一年を通した湿度条件に対応できます。
粉体調味料の包装工程では、高湿度環境で水分を吸収しやすく、固まりやすくなることが課題です。空気温度を上げて相対湿度を下げる方法もありますが、製品や工程への影響を考えると、十分な対策とは言えません。
また、フリーズドライ食品などの低温乾燥品は、包装時にわずかな水分を吸収するだけでも、開封前に品質が劣化してしまうリスクがあります。
こうした現場で導入されているのが、ティーネットジャパンの湿式デシカント空調「カサバー」です。カサバーが作り出す低温・低湿環境は、安定した品質管理と異物混入防止を実現。さらに衛生的な包装室環境の維持や省エネ運用、品質劣化の防止にもつながります。
半導体や液晶パネル、その他の精密電子部品の製造工程では、空気中の湿度が製品の性能や信頼性に大きな影響を与えます。静電気による回路破壊、金属部分の腐食・酸化、ごくわずかな水分の付着によるショートや不良など、湿度によるリスクを排除するため、クリーンルームをはじめとする製造空間では極めて厳格な温湿度、特に低露点温度の管理が不可欠です。
ハイブリッド式は、冷却除湿方式とデシカント方式を組み合わせた空調手法で、温度・湿度の双方を効率的に制御できます。冷却コイルで空気を冷却して水分を凝縮・除去したあと、デシカントユニットで残った水分を吸着・調整します。
これにより、温度変化に関する熱と水分の除去に関する熱の処理を分担でき、単一方式では対応が難しい負荷変動にも柔軟に対応可能です。
導入を検討する際は、対象施設に必要な湿度制御の精度や室温条件、空調の適用範囲(面積・容積)をあらかじめ把握しておくことが重要です。これらの条件に応じて、精密制御を重視するなら湿式、シンプルな除湿を求めるなら乾式(ローター式)を選択しましょう。
製薬工場や大学・研究施設のように、省エネルギーと制御精度の両立が求められる現場では、2つの方式の特性を活かせるハイブリッド方式が有力な選択肢となります。設備規模と制御精度のバランスを踏まえて方式を選定することで、過剰な設備投資や運用負荷を避けた、効率的な湿度管理が可能です。
初期導入コストに加えて、ランニングコストや保守管理の手間も考慮すべきです。ローター式は構造が比較的簡素でメンテナンスがしやすいため、日常管理にかかる作業負荷を小さく抑えられます。
一方、湿式やハイブリッド式は高機能である反面、吸湿液の管理や運転制御の知識が必要となるため、メンテナンスは専任担当者や外部業者に任せるのが良いでしょう。導入時の選定だけでなく、運用・保守までを視野に入れた計画を立てることで、継続的に安定した湿度管理を実現できます。
画像引用元:株式会社ティーネットジャパン公式HP
(https://www2.tn-japan.co.jp/kathabar/contents/products/kathabar/)
0℃付近で高い省エネ効率(乾式デシカント比約40%削減※1)を発揮し、低温環境での運用コストを大幅に削減。霜取り運転も不要なため安定した稼働が見込めます。
特殊溶液が結露・粉じんを抑え、製品トラブルを予防。除菌性(食塩水相当)により空気中の菌も除去※2し、HACCPにも対応可能です。
画像引用元:株式会社西部技研公式HP
(https://seibu-giken.com/products/287/)
機能性ハニカム構造を製造する技術と、特殊シリカゲルや合成ゼオライトを使用することにより、-90℃DPという超低露点に対応します。
クリーンブースの一体設計が可能。湿度制御の精度を高めることで、恒常的な超低湿制御が前提となる有機EL製造に対応できます。
画像引用元:日本特殊陶業公式HP
(https://niterra-air.com/)
天井埋め込み型なので店内の景観を損なわず、最短1日の夜間工事※3で設置が完了。営業への影響を抑えた導入が可能です。
独自開発の除湿素材を活用し、店内の湿度を40〜50%に保つことで、冷蔵ショーケースの曇りや結露の発生を抑えやすい空調環境を整えます。
※1 108.8kW→61.9kW 参照元:ティーネットジャパン公式HP(https://www2.tn-japan.co.jp/kathabar/files/products_kathabar/comparison_table.pdf)
※2 実証実験による結果。測定場所:某ビール工場 測定日時:1998年7月7日 測定機器:RCSエアーサンプラー(密閉状態で測定)
参照元:ティーネットジャパン公式HP(https://www2.tn-japan.co.jp/kathabar/contents/products/kathabar/)
※3 1台で約1日(スーパーマーケットの場合、閉店後~翌開店前まで)で設置可能。 参照元:日本特殊陶業株式会社公式HP(https://niterra-air.com/faq/)