デシカント空調は、低露点環境や精密な湿度制御が求められる現場で力を発揮する空調方式です。一方で、吸湿材を再生するためのエネルギーが必要になるため、運転条件によってはランニングコストが課題になる場合があります。
こうした課題への対策として注目されるのが、全熱交換器との連携です。外気をそのまま処理するのではなく、排気の持つ熱や湿気を活用して外気負荷を事前に下げることで、デシカント空調の処理負担を軽減できます。
本記事では、全熱交換器の基本原理から、デシカント空調との連携方法、省エネ効果、効果が出やすい施設の特徴までを整理し、設備検討時の判断材料となる情報を解説します。
全熱交換器とは、排気と外気のあいだで熱と湿気をやり取りし、換気による空調負荷を抑える設備です。一般的な換気では、室内から排出する空気の温度や湿度をそのまま捨ててしまいますが、全熱交換器を用いることで、排気側のエネルギーを外気側へ受け渡すことができます。
ここで交換されるのは、温度に関わる顕熱だけではありません。空気中の水分量に関わる潜熱も同時に移動するため、室内の排気条件に応じて外気を予冷・予熱しながら、予加湿・予除湿するような効果が得られます。
その結果、換気時に外気を一から空調処理する必要が減り、空調機や除湿設備の負荷低減につながります。特に、外気導入量が多い工場や病院、倉庫では、この負荷低減効果が大きくなりやすいです。
熱交換器にはいくつか種類がありますが、デシカント空調との連携を考える際は、温度だけを扱うのか、湿度も含めて扱うのかを区別することが重要です。
| 種類 | 交換対象 |
|---|---|
| 顕熱交換器 | 温度のみ |
| 全熱交換器 | 温度+湿度 |
顕熱交換器は温度差の回収に強みがありますが、湿度負荷の低減までは行えません。一方、全熱交換器は湿気も扱えるため、高湿度外気が流入する施設ではより大きな負荷低減効果が期待できます。
デシカント空調は、吸湿材で空気中の水分を取り除く方式ですが、吸着した水分をそのままにしておくことはできません。連続的に運転するためには、吸湿材を再び使える状態に戻す再生工程が必要です。
この再生工程では、ローター式であれば再生ヒーターを用いて吸湿材を加熱し、吸着された水分を放出させます。再生熱源としては、温水、蒸気、電気ヒーターなどが使われることが多く、設備条件やエネルギー源の確保状況によって選定されます。
つまり、デシカント空調は高い除湿性能を持つ一方で、その性能を維持するための再生エネルギーを常に必要とする設備でもあります。
外気が高温多湿であるほど、デシカント空調が処理しなければならない水分量は増加します。特に梅雨時期や夏季のような環境では、外気をそのまま取り込むと、除湿負荷が大きくなりやすいです。
除湿負荷が増えると、ローターで吸着する水分量も増えるため、再生側で必要となる熱量も増加します。その結果、再生ヒーターの負荷が高まり、ランニングコストも上がる傾向があります。
このため、デシカント空調を高効率に運用するためには、除湿する前段階で外気負荷をどれだけ軽減できるかが重要になります。その役割を担うのが全熱交換器です。
全熱交換器とデシカント空調を組み合わせる場合、まず外気を全熱交換器に通し、室内から排出される空気と熱・湿気を交換させます。これにより、外気は室内条件に近い状態へと事前調整されます。
そのうえで、予冷・予除湿された空気をデシカント空調へ送り、必要なレベルまで精密除湿を行います。さらに、排気の持つ熱エネルギーを再生側で活用する設計ができれば、再生工程で必要なエネルギーも抑えやすくなります。
大まかな流れとしては、全熱交換器で負荷を下げてから、デシカント空調で仕上げ除湿するイメージです。この前処理があることで、デシカント空調はより効率的に運転しやすくなります。
全熱交換器が省エネに寄与する理由は、外気負荷を事前に軽減できる点にあります。高温多湿の外気をそのままデシカント空調で処理する場合に比べ、全熱交換器を通した外気はすでに温湿度差が縮まっているため、後段設備の負荷が小さくなります。
この負荷低減によって、デシカント側で必要となる再生エネルギーが減り、冷却や再熱に関わるエネルギー消費も抑えやすくなります。特に、換気量が多く、年間を通して運転時間が長い施設では、こうした差がランニングコストに大きく反映されやすいです。
梅雨や夏季は、外気が高温多湿になりやすく、換気を行うだけでも大きな湿度負荷が室内へ持ち込まれます。全熱交換器を前段に設けることで、排気との熱交換により、取り込む外気をあらかじめ室内条件に近づけることができます。
この予冷・予除湿効果により、後段のデシカント空調が受け持つ除湿量が減少し、ピーク負荷を緩和しやすくなります。結果として、設備全体の消費エネルギーを抑えながら安定した湿度制御を行いやすくなります。
施設によっては、排気側の熱や他設備からの排熱を再生側に活用する設計が可能です。これにより、再生ヒーターの負荷を下げ、デシカントローターの再生に必要なエネルギーを一部代替できます。
全熱交換器と排熱回収を組み合わせることで、単に外気負荷を抑えるだけでなく、再生工程そのものの効率化にもつなげられる場合があります。工場のように熱源が複数存在する施設では、こうした設計が特に有効です。
全熱交換器との連携効果は、短時間の断続運転よりも、年間を通して長時間運転する施設で大きくなりやすいです。食品工場、医薬品工場、病院などでは、外気を継続的に導入しながら空調を稼働させるため、わずかな負荷差でも年間累積では大きなコスト差になります。
そのため、全熱交換器の導入は初期投資を伴うものの、運転時間が長い施設ほど省エネ効果が見えやすく、ランニングコスト削減の観点から有効な選択肢になり得ます。
全熱交換器とデシカント空調の組み合わせは、しばしばハイブリッドデシカントと混同されますが、両者は主目的が異なります。全熱交換器との連携は主に外気負荷の軽減を目的とし、ハイブリッドデシカントは冷却除湿と吸着除湿の統合によって温湿度制御を最適化する方式です。
| 比較項目 | 全熱交換+デシカント | ハイブリッドデシカント |
|---|---|---|
| 主目的 | 外気負荷軽減 | 冷却+除湿統合 |
| 省エネ方法 | 熱回収 | 冷凍サイクル併用 |
| 適用範囲 | 外気量が多い施設 | 中~高精度空間 |
外気導入が多い施設では全熱交換器との連携が有効であり、より高精度な温湿度制御や中湿度帯での省エネ性を重視する場合にはハイブリッド方式が候補になります。どちらが適しているかは、施設の換気条件と要求環境によって変わります。
食品工場では、原料搬入や包装工程などで外気を取り込む場面が多く、湿度変動による結露リスクが高まりやすいです。全熱交換器で外気負荷を下げてからデシカント空調で除湿することで、結露対策とHACCP対応の両面で効果が期待できます。
クリーンルームを備える医薬品工場では、外気導入量が多い一方で、温湿度の安定性も厳しく求められます。全熱交換器を組み合わせることで、外気処理の負荷を軽減しつつ、GMP対応に必要な安定環境を維持しやすくなります。
病院の手術室やICUでは換気量が多く、感染対策の観点からも外気導入が重要になります。その分、外気による温湿度負荷が大きくなりやすいため、全熱交換器との連携によって空調負荷を抑えられるメリットがあります。
大型シャッターの開閉が多い倉庫や物流施設では、外気流入によって湿度負荷が急変しやすいです。こうした施設では、全熱交換器だけでなく建物の運用条件も含めた設計が重要ですが、外気処理の一部を効率化する設備として有効に機能する場合があります。
全熱交換器とデシカント空調を連携させる場合は、単体設備として選ぶだけではなく、全体のシステム設計として成立しているかを確認する必要があります。
特に重要なのは、ダクト設計との整合です。全熱交換器を追加することで圧力損失が増える場合があるため、ファン容量や風量設計に影響が出ることがあります。また、再生側へ熱を活用する設計では、再生熱源の容量や温度条件が適切かも確認しなければなりません。
さらに、外気量がそれほど多くない施設では、全熱交換器を追加しても効果が限定的となり、過剰設備になる可能性があります。導入前には、外気条件、年間運転時間、熱源構成まで含めて総合的に評価することが重要です。
全熱交換器とデシカント空調を組み合わせた省エネ設備は、導入内容や省エネ率によっては補助金対象となる可能性があります。特に、省エネ性の向上やCO2削減効果が明確な場合は、各種支援制度を活用できるケースがあります。
代表的なものとしては、省エネ補助金やSHIFT事業などが挙げられます。これらは年度ごとに要件が変わることがあるため、最新情報の確認が必要ですが、熱回収による省エネ率が評価対象になる場合もあります。
設備更新時に補助金を活用できれば、初期投資負担を抑えながら高効率なシステムを構築しやすくなります。
全熱交換器とデシカント空調の連携において重要なのは、外気負荷をどれだけ事前に軽減できるかです。全熱交換器で外気の温湿度差を縮めることで、デシカント空調の再生エネルギー負担を抑えやすくなり、省エネ性の向上につながります。
特に、換気量が多い工場、病院、倉庫などでは、この効果が大きくなりやすく、長時間運転施設ほど年間コストへの影響も見えやすくなります。ただし、すべての施設で有効とは限らず、外気条件や運用条件に応じた適切な設計が必要です。
デシカント空調の性能を活かしながらランニングコストを抑えたい場合は、全熱交換器を含めたシステム全体での最適化を検討することが重要です。
画像引用元:株式会社ティーネットジャパン公式HP
(https://www2.tn-japan.co.jp/kathabar/contents/products/kathabar/)
0℃付近で高い省エネ効率(乾式デシカント比約40%削減※1)を発揮し、低温環境での運用コストを大幅に削減。霜取り運転も不要なため安定した稼働が見込めます。
特殊溶液が結露・粉じんを抑え、製品トラブルを予防。除菌性(食塩水相当)により空気中の菌も除去※2し、HACCPにも対応可能です。
画像引用元:株式会社西部技研公式HP
(https://seibu-giken.com/products/287/)
機能性ハニカム構造を製造する技術と、特殊シリカゲルや合成ゼオライトを使用することにより、-90℃DPという超低露点に対応します。
クリーンブースの一体設計が可能。湿度制御の精度を高めることで、恒常的な超低湿制御が前提となる有機EL製造に対応できます。
画像引用元:日本特殊陶業公式HP
(https://niterra-air.com/)
天井埋め込み型なので店内の景観を損なわず、最短1日の夜間工事※3で設置が完了。営業への影響を抑えた導入が可能です。
独自開発の除湿素材を活用し、店内の湿度を40〜50%に保つことで、冷蔵ショーケースの曇りや結露の発生を抑えやすい空調環境を整えます。
※1 108.8kW→61.9kW 参照元:ティーネットジャパン公式HP(https://www2.tn-japan.co.jp/kathabar/files/products_kathabar/comparison_table.pdf)
※2 実証実験による結果。測定場所:某ビール工場 測定日時:1998年7月7日 測定機器:RCSエアーサンプラー(密閉状態で測定)
参照元:ティーネットジャパン公式HP(https://www2.tn-japan.co.jp/kathabar/contents/products/kathabar/)
※3 1台で約1日(スーパーマーケットの場合、閉店後~翌開店前まで)で設置可能。 参照元:日本特殊陶業株式会社公式HP(https://niterra-air.com/faq/)