デシカント空調の導入を検討する際、「デシカントローター」という言葉をよく耳にします。しかし、ローターがどのような構造で、なぜ回転させる必要があるのか、疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
この記事では、デシカントローターの基本的な仕組みから、吸湿材の種類、除湿のプロセス、メンテナンスのポイントまで、基礎知識をわかりやすく解説します。
デシカントローターは、乾式デシカント空調において空気中の水分を取り除くための主要な部品です。
円盤状のローターがゆっくりと回転しながら、空気中の水分を吸着する「吸湿」と、吸着した水分を放出する「再生」を繰り返します。ローター内部にはシリカゲルやゼオライトなどの吸湿材が利用されており、処理空気から水分を吸着し、再生空気によってその水分を放出します。
これを連続して行うことで、使い捨ての乾燥剤とは異なり、継続的な除湿が可能になります。デシカントローターは、デシカント空調の除湿能力を左右する重要な部品の一つです。
デシカントローターは、主に以下のような要素で構成されています。
製品によってローターの材質や使用される吸湿材、構造、分割方法などは異なります。そのため、性能を比較する際はローター単体ではなく、製品全体の仕様を見ることが重要です。
デシカントローターの多くは、多数の細い流路を持つ蜂の巣状の「ハニカム構造」を採用しています。
ハニカム構造の利点は、同じ体積でも空気と接触する表面積を大きく確保しやすい点にあります。空気を通しながら、壁面に担持された吸湿材と効率よく接触させることができます。
空調機においては、空気の通りにくさ(圧力損失)を抑えつつ大きな接触面積を確保することが求められます。ローターのセル形状や密度は、風量・圧力損失・除湿性能に影響するため、製品ごとにハニカム構造の設計思想が異なります。
デシカントローターには、主に以下のような吸湿材が使用されます。
吸湿材によって得意な湿度領域や、水分を放出させるための再生条件が異なります。単純な性能比較ではなく、必要露点や使用条件との相性で選定することが大切です。
シリカゲルは多孔質構造を持つ代表的な吸湿材であり、微細な孔の表面へ水分子を吸着します。
幅広い湿度条件で利用できるデシカントローターが存在し、ハニカム構造体へシリカゲルを担持することで広い吸着面積を確保しています。吸着した水分は再生空気によって放出させますが、詳細な吸着特性や再生条件は製品仕様によって異なります。
ゼオライトは非常に細かな孔を持つ結晶性材料で、水分子を吸着する性質を利用して除湿を行います。
低湿度・低露点用途のローターに採用されることがあり、リチウムイオン電池、有機EL、精密機器などの低露点環境で使用される製品もあります。ただし、到達露点は吸湿材だけで決まらず、再生温度、シール、風量、設備構成なども大きく影響するため、メーカーが示す条件付き性能値を確認しましょう。
デシカントローターは、以下のサイクルを連続的に繰り返すことで除湿を行います。
「処理側」とは、湿度を下げたい空気をローターへ通すエリアのことです。
この部分を空気が通過する際、吸湿材が空気中の水蒸気を吸着します。ローター通過後の空気は水分量が少ない乾燥状態となり、製造室、ドライルーム、倉庫などへ供給されます。処理側の風量や入口温湿度によって除湿負荷が変わるほか、フィルターの目詰まりなどで処理風量が低下すると設備性能にも影響します。
「再生側」とは、水分を吸着したローターを再び使える状態へ戻すためのエリアです。
加熱した空気をローターへ通し、吸着した水分を放出させます。放出された水分は再生排気とともに設備外へ排出されます。再生が不十分だと、ローターが次の処理側へ戻った際に十分に水分を吸着できません。再生温度だけでなく、再生風量も重要な要素となります。
一つの場所で水分を吸着し続けると、その部分はやがて吸着能力の限界(飽和状態)に達します。
ローターを回転させることで、水分を吸着した部分を再生側へ移動させることができます。そして再生した部分は再び処理側へ戻ります。このように吸着と再生を同時並行で行えるため、連続運転が可能になります。ローターの回転速度も製品性能を左右する要素の一つです。
回転速度が速すぎると、十分に吸湿・再生する前に次の領域へ移動してしまう可能性があります。逆に遅すぎると、処理側で吸湿材が飽和に近づき、除湿効率が落ちる場合があります。
適切な速度は吸湿材の種類、風量、温湿度、再生条件などによって異なります。一部の設備では負荷に応じた制御を行う場合がありますが、基本的には任意に速度を変更するのではなく、メーカーの設定に従って運用します。
吸着した水分をローターから放出させるには、熱エネルギーが必要です。
再生温度が不足するとローターに水分が残り、処理側に戻った際の除湿能力が低下します。一方で、必要以上に高い温度で運転すればよいわけではなく、適切な再生温度は吸湿材や製品仕様によって異なります。
再生熱源には電気ヒーター、蒸気、温水、ガス、工場の排熱などを利用するシステムがあります。ランニングコストを考える際も、この再生条件が重要になります。
ローターは、処理側と再生側という異なる状態の空気が流れるエリアをまたいで回転します。
もし両側の空気がそのまま混ざってしまうと、再生側の高湿度な空気が処理側へ流れ込み、除湿性能が大幅に落ちてしまいます。そのため、ローター周囲には空気漏れを抑えるためのシールが設置されています。
シールの摩耗や位置ずれによって露点性能が悪化する場合があり、特に超低露点用途ではわずかな漏気でも影響が大きくなります。メンテナンス時にはローターだけでなくシールも点検が必要です。
デシカント空調を通過した空気は、温度が上昇することがあります。これは、水分の吸着に伴って吸着熱が発生するためです。
また、ローター自体が再生側の加熱エリアから熱を持ち込む影響もあります。用途によっては、ローターの後段に冷却コイルなどを設置して温度を調整します。低温・低湿環境では「除湿」と「冷却」を別工程として設計する場合があり、湿度制御だけでなく処理後温度まで含めたシステム設計が求められます。
一般的なエアコン(冷却除湿)は、空気を露点温度以下まで冷やして水分を凝縮(結露)させて除湿します。一方、デシカントローターは、吸湿材へ水分を直接吸着させて除去します。
水分を除去する原理が異なるため、得意な温湿度帯も異なります。デシカントローターは低湿度・低露点環境での使用に向いています。また、要件によっては冷却除湿とデシカント除湿を組み合わせる方式もあります。
デシカントローターは冷却による水分の凝縮だけに頼らず、吸湿材が空気中の水分を直接吸着するため、低湿度領域でも吸着性能を発揮できます。
多段構成や前処理・後処理を組み合わせることで、さらに低い露点を目指す設備もあります。ただし、低露点化にはローターの性能だけでなく、高い気密性や適切な再生条件が欠かせません。外気侵入や人の出入りも性能へ影響します。
デシカントローターは、主に以下のような用途で活躍しています。
求める露点や温度帯によって、適するローターや空調構成は異なります。
以下のような課題や要望がある場合、デシカントローター方式が適している可能性があります。
デシカント空調の性能は、ローター単体のスペックだけで決まるわけではありません。
これらすべての要素が組み合わさって、最終的な除湿性能が決まります。
製品を比較する際は、処理風量、除湿量、出口露点、適用温湿度範囲、再生温度、再生風量、圧力損失、消費エネルギーなどを確認します。
このとき、「最低露点」などの単一の数値だけで判断するのではなく、実際の使用条件とメーカーの性能試験条件が一致しているかを確認することが重要です。
デシカントローターは使用していくうちに劣化する場合があります。主な要因としては以下が挙げられます。
使用環境や日々のメンテナンス状況によって、ローターの寿命は大きく変わります。
ローターの性能が低下すると、「設定湿度まで下がらない」「露点が悪化する」「設定値到達までの時間が長くなる」といった症状が現れやすくなります。
また、目詰まりによって圧力損失が大きくなったり、運転時間の増加に伴ってエネルギー消費が増えたりすることもあります。ただし、同様の症状はフィルターの汚れやファン・ヒーターの異常などでも発生するため、全体的な点検が必要です。
安定した性能を維持するためには、定期的なメンテナンスが欠かせません。
基本的には、メーカーが指定する点検方法に従って実施します。
製品によって洗浄の可否や方法は異なります。
表面の粉じん除去などで性能が改善する場合もありますが、水や洗剤によって吸湿材を傷める可能性もあります。特にシリカゲルやゼオライト等の担持方法によって扱いが異なるため、自己判断で高圧洗浄や薬品洗浄を行うのは避けましょう。必ずメーカー指定のクリーニング方法を確認してください。
デシカントローターは、一般的な消耗品のように一定期間で必ず交換するとは限りません。使用環境や運転条件により寿命が異なります。
洗浄やシール交換、駆動部修理で性能が回復する場合もありますが、吸湿性能そのものが低下している場合はローター交換を検討します。長期間使用した設備では、ローターのみの交換と設備全体の更新にかかる費用を比較検討することをおすすめします。
円盤状の回転体を使う点では似ていますが、役割は異なります。
デシカントローターは主に空気中の水分除去を目的とします。一方、全熱交換器のローターは、排気と給気の間で熱や湿気を回収して省エネを図ることを目的としています。使用される材料や設計思想も異なるため、外見だけで同じ設備と判断しないよう注意が必要です。
デシカント空調のすべてがローター式というわけではありません。
塩化リチウム水溶液などを利用する「湿式デシカント方式」もあります。液体デシカントでは、ローターではなく溶液と空気を直接接触させて水分を取り込みます。目的や温度帯によって、適する方式が選ばれます。
導入を検討する際は、以下の項目を整理することが大切です。
メーカーへ実際の使用条件を提示したうえで、適切な製品を選定しましょう。
導入前の検討層からよく寄せられる疑問には、以下のようなものがあります。
これらの回答は製品ごとの仕様や使用環境によって大きく異なるため、具体的な条件をもとにメーカーへ確認することが確実です。
有機EL製造など超低露点環境を必要とする場合は、低露点対応に特化した製品を検討します。一般的な工場や倉庫などでは、必要露点・風量に合った製品を幅広く比較します。また、チルド食品の低温環境などでは、ローター式だけでなく湿式デシカントも比較対象になることがあります。
方式ありきで決めるのではなく、用途や目標温湿度から適切な製品を選ぶことが大切です。
・デシカントとは?吸湿材の種類と除湿の仕組み
・デシカント空調の仕組み・原理を徹底解説
・デシカント空調の種類|ローター式・ハイブリッド式など
・ローター式デシカント空調とは?構造と特徴
・デシカント空調の露点温度とは?
・フィルター交換・ローター点検
・デシカントローターの交換時期は?劣化症状と寿命の目安
・デシカント空調の除湿能力が落ちた原因と対処法
・デシカント空調製造メーカー一覧・比較
デシカントローターは、乾式デシカント空調で空気中の水分を取り除くための中核部品です。
ハニカム構造などの内部にシリカゲル・ゼオライト等の吸湿材を利用し、空気中の水分を吸着します。ローターが回転することで、処理側で吸湿した部分を再生側へ移動させ、加熱によって水分を放出します。この吸湿と再生を連続的に繰り返すことで、継続した除湿が可能になります。
性能は吸湿材だけでなく、処理風量、再生温度、再生風量、回転速度、シール性能などを含めたシステム全体に左右されます。粉じんや油分、シール摩耗などは除湿性能低下につながるため定期点検が重要です。製品を選ぶ際は、ローターの種類だけでなく、必要露点・温度・風量・熱源などを含めた全体設計で比較検討しましょう。
画像引用元:株式会社ティーネットジャパン公式HP
(https://www2.tn-japan.co.jp/kathabar/contents/products/kathabar/)
0℃付近で高い省エネ効率(乾式デシカント比約40%削減※1)を発揮し、低温環境での運用コストを大幅に削減。霜取り運転も不要なため安定した稼働が見込めます。
特殊溶液が結露・粉じんを抑え、製品トラブルを予防。除菌性(食塩水相当)により空気中の菌も除去※2し、HACCPにも対応可能です。
画像引用元:株式会社西部技研公式HP
(https://seibu-giken.com/products/287/)
機能性ハニカム構造を製造する技術と、特殊シリカゲルや合成ゼオライトを使用することにより、-90℃DPという超低露点に対応します。
クリーンブースの一体設計が可能。湿度制御の精度を高めることで、恒常的な超低湿制御が前提となる有機EL製造に対応できます。
画像引用元:日本特殊陶業公式HP
(https://niterra-air.com/)
天井埋め込み型なので店内の景観を損なわず、最短1日の夜間工事※3で設置が完了。営業への影響を抑えた導入が可能です。
独自開発の除湿素材を活用し、店内の湿度を40〜50%に保つことで、冷蔵ショーケースの曇りや結露の発生を抑えやすい空調環境を整えます。
※1 108.8kW→61.9kW 参照元:ティーネットジャパン公式HP(https://www2.tn-japan.co.jp/kathabar/files/products_kathabar/comparison_table.pdf)
※2 実証実験による結果。測定場所:某ビール工場 測定日時:1998年7月7日 測定機器:RCSエアーサンプラー(密閉状態で測定)
参照元:ティーネットジャパン公式HP(https://www2.tn-japan.co.jp/kathabar/contents/products/kathabar/)
※3 1台で約1日(スーパーマーケットの場合、閉店後~翌開店前まで)で設置可能。 参照元:日本特殊陶業株式会社公式HP(https://niterra-air.com/faq/)